【小説紹介】されど罪人は竜と踊る 3、4巻(ガガガ文庫)
されど罪人は竜と踊る 3 Silverdawn Goldendusk(著:浅井ラボ)(ガガガ文庫)
されど罪人は竜と踊る 4 Soul Bet’s Gamblers
◎この作品について
『され竜』シリーズの第3、4巻です。
基本設定などが知りたい方はこちらからどうぞ。
経済が話に絡(から)んできます。
3巻のタイトルは『銀の夜明け、金の夕暮れ』、4巻のタイトルは『魂の賭博場』という意味です。
3巻は経済っぽさの表現でしょうか。
4巻は十六章の始まりに書かれる詩にありました。激しい戦場の例えなのでしょうね。
◎新しく出た設定など
○古き巨人(エノルム)
早い話が巨大ロボットの<異貌のものども>です。
普段は人型サイズにまで圧縮(小型化、縮小化?)してエリダナに潜伏、襲来してきます。
平均的な体長(小型化していないとき)は15~18メートル(作中では『メルトル』と表記される)で、珪金化物(けいきんかぶつ)の身体を持ちます。
生きている化学工場で発電所。
具体的に細かく書くと(作中から引用)、通常の生物が炭素を基盤とした炭素基生物であるのに対し、エノルムは炭素を珪素(けいそ)に置き換えた生物で、体内の水素がリチウム、窒素が燐(りん)、燐が砒素(ひそ)と周期表にある元素が一段だけ変位している生物だとのこと。
鉱物や原油を主食とし、アスファルトの排泄物を出します。
身体の色と眼の色によって18属(元素の族)118派(原子番号)に分類されます。
始祖である18柱の巨神と、118帝、皇や王が存在します。
頭部にある眼の数が年齢や強さを表し、作中では主に3~7つ目のエノルムが暗躍しています(彼らの主君であるゾアイデス帝は88の目を持ち、体長は400メートルほどありました)。
ちなみに彼らの名前は見ればわかりますが、基本的に全て『○○○○●・●』(例:ゾアイデス・ス)のように・で区切られた部分前と後が同じ発音(?)になっています。
今回登場するエノルム(怨帝および、怨帝の十三の嫡子)たち一覧です↓(注:覚えなくていいです)
・(主君、怨帝)ゾアイデス・ス
・ゾレイゾ・ゾ
・ゲヒンナム・ム
・ネビロ・ロ
・ザムザ・ザ
・リクルゴ・ゴ
・ガニシュキナ・ナ
・ルコルジ・ジ
・ヒヘイデス・ス
・ヨルムデ・デ
・他四体
・ティボルト・ト(入団希望者)
○ウォルロット・ウォルハーグ
ピエゾ国(後述)の勇者(国一番の攻性咒式士)の青年にして、その国の虐殺事件に関与してしまったため(当時の命令を鵜呑みにして従ってしまった)、政変後は虐殺者としてピエゾの永久監獄に投獄されていましたが、すぐに脱獄しています。
現在は黒社会(犯罪組織、暴力団にほぼ同じ)に借金をしては踏み倒し、シャハーツという麻薬に溺れています。
旧友のブローゾから儲け話を受け、エリダナへとやってきます。
○ピエゾ国(ピエゾ連邦共和国)
キー(鍵)となる国です。ガユスたちの住む街、『エリダナ』の北にある大国『ツェベルン龍皇国』(基本的に話全体の中でメインとなる舞台の国でもあります)のさらに東北側に位置する小国で、エリダナにはその特殊部隊(の残党? 特殊諜報機関)が暗躍します。
◎見どころ 3巻
主人公、ガユス行きつけのお店(ホートンの店、プロウス軽飯店)で、ガユスの好物であるポロック揚げ(メンチカツ?)が110イェンから115イェンに値上がりしているなど、世間の経済が大変そうな雰囲気がたちこめています。
古き巨人(エノルム)たちとの戦闘シーンが激しく楽しいです。最初の遭遇時には主人公のガユスが人間サイズのエノルム(この時はエノルムだとは気付かなかった)毒ガス咒式のち爆裂咒式を放つのですが、全くと言っていいほど効果がなく、その場にいたウォルロット共々驚愕(きょうがく)します。
その後巨大化したエノルムたちがエリダナの街中で暴れ出します。腕の振り降ろしの一撃で即席の自警団的な戦線が壊滅したり、とんでもない天災を引き起こします。
2巻で登場した災厄咒式<アヴァ・ドーン>の咒式技術とレメディウス方程式が各国に流出し、龍皇国も憂慮する事態となっています。ピエゾもそれに乗っているもよう。
ガユスの元生徒(注:ガユスは副業で予備校教師をしています)のフリューが経済的貧困のただ中にあり、いくら働いても派遣会社に賃金をピンハネされ、挙句に勤めている会社の買収騒ぎで周囲の者たちを含めて一斉解雇の対象にされてしまいます。
フリューは過激な思想に身を投じ、過激派組織の『エリダナ憂国騎士団』に入団してしまい、ピエゾの策謀に利用されて殺害(公衆に対し演説、旗を振ろうとしていたところ(?)を狙撃・射殺)されます。
たまにカスペルという青年が出てきますが、よくされ竜に出てくる無能キャラの1人(先駆け)です。
ニートで祖母の年金を頼りに暮らしています。容姿と能力は人並みらしいですが、だらしがなく、自堕落しきった性格でいろいろと終わっています。
話の終盤にだけ物語に絡んできますが、それは4巻終盤を読めば分かります。
翼将(モルディーン12翼将)も暗躍します。
1巻終盤で戦った翼将9位と10位の双子の兄弟、イェスパーとベルドリトが第2席(2位)の大賢者ヨーカーンによる転移咒式でエリダナへと来てエノルムと戦います。
龍皇国の北方(?)あたりにあるバザーヤ山では翼将8位のウフクス・ジゼロット(純アルリアン人(エルフのような人種)の女性)と7位のシザリオス・ヤギン(3メートル近い巨体、正義の味方を自称する間違った方向の正義の使者)が任務に就きます。
こちらもエノルムやそれに関係した敵との戦闘ですが、翼将8位以降は1人で小国を壊滅させられるような怪物たちなので、相手の巨人(普通の、炭素基生物の巨人。エノルムにあらず)たちなどでは手も足も出ません。
ウフクスは細菌およびウィルスによる生体生成系咒式(ただし、ウフクス本人は極端な生物嫌いで生物恐怖症)を使用し、シザリオスは膨大な生体系咒式(筋力強化など)に加え、重力力場系、電磁雷撃系咒式を使用します。
圧倒的な戦力ですね。特にフラグではありません。
◎見どころ 4巻
3巻でのフリューの死をきっかけとして『エリダナ憂国騎士団』が攻性咒式士を含め肥大化した大規模武装組織となっています。
武装度は高いですが、今一つ頭の足りない組織だとし、大きな金銭の動きにはガユスたちが違和感を覚えます。
(かなり強引な)調査の結果、北方訛(なま)りのある男から現金で資金援助を受けているとのこと。
ガユスやギギナ、ウォルロットらが敵エノルムたち一悶着ののち、情報を交換し、ガユスの恋人のジヴ(ジヴーニャ)を交えた食事シーンになります。
挿絵つきで、様々な食事が出てきます。ガユスが作りました。
され竜の料理描写はとても美味しそうなので必見。
けっこう陰謀劇のネタバレにどんどんなっていくので、そこまで詳しくは書きません。
◎感想など
経済小説っぽさが出ているような気もしますが、けっこう大味です。
資本主義の前に普通の人々が搾取または蹂躙されていくのは悲しいですね。
とにかくアクションシーンが凄いです。ウォルロットの攻性咒式、エノルムの使用咒式の数々は必見。
あと、ゲヒンナム・ムの例のシーンはいろいろとアレです。わりと恒例になっている気がしますが。
レメディウス方程式は2巻以降、今後たびたび登場します。主にワープ航法的な咒式に使われる模様。
よくこんな長い小説(3、4巻併せて1200ページほど)を書けるな、というのは驚きです。
描写が細かいので、慣れればすぐに読めて、状況を把握しやすいですが(陰謀劇も大丈夫)。構成もよく考えられていると思います。
相変わらず好きだなー、され竜。次の5、6巻は短編集になります。